【第03回】読みます企画の総括

謝辞

令和4年12月16日から2日間、前回に引き続き、児童文学の檸檬レーベル主催で「【第03回】名興文庫があなたの作品読むよ!」企画を開催しました。ご参加くださった皆様、拡散にご協力してくださった皆様、ありがとうございます!

企画詳細

「【第03回】名興文庫があなたの作品読むよ!」の詳細は以下になります。
*企画告知のページはこちら

【求める作品】
「伝えたいのはなんですか?」~ローティーンが楽しめる・伝わる作品
【条件】
・メッセージやテーマを意識した作品であること
・年齢制限(R制限)の要素がないこと
・総文字数 4000字〜40000字以内(短編・中編作品)
・完結済みであること
・おひとり1作品まで
・無料公開中の作品であること
・作品の感想・講評の公開に同意できること
【ルール】
・「条件」を読んでご理解ください
・作品のURLをtwitterでの告知にリプライにてお知らせください
・募集期間は2022/12/16正午〜2022/12/18正午まで
・応募数の上限なし
・読了後、感想を公開します。予め了承の上、ご応募ください。

まとめ

 前回はローティーン、13歳前後のおこさん向けに「保護者フィルター」に耐えうる作品を募集していました。今回も、対象読者は前回と同じく11歳から15歳。さらに、“「伝えたいのはなんですか?」~ローティーンが楽しめる・伝わる作品”と題し、こどもたちが「読める・伝わる・楽しめる」短・中編作品を求めました。応えてくださった作家さまには感謝を申しあげます。

 十代前半の読者を楽しませ、想いを届けるために、なにが必要か──それぞれに考えられた作品をお寄せいただきました。作品ごとにその手段が異なり、読み手としても考えさせられることになりました。娯楽性、話題性、童話オマージュ、自分探し、共感性……たくさんの模索が詰まっていました。話題性でいうと、6作中4作までもが「多様な生き方」をテーマのひとつに挙げていたことに目を引かれ、切り口の違いを興味深く読ませていただきました。これをテーマに、また応募作品を参考に、書き手の皆さんがこのテーマを扱う引き出しを増やしていただくのも面白いでしょう。

 さて、この時期のこどもたちは、成長の段階として「自分と他者の違い」にデリケートな思いを抱くものです。ちいさなことが気になって、他人の評価が気になって……という経験は多くの方に覚えがあることでしょう。ローティーン読者へ読んでほしい作品は、そうした年代特有の感性にも配慮がほしいもの。また、そうした配慮のある作品を、檸檬は求めています。

 なぜ?

「児童文学作品」のセレクションは、おとなが慎重に選ぶこどものための本棚です。檸檬としては、必ずしも、明るく楽しく優しくあれとは言いません。けれども子らの健やかな学びを願う親心が、そこには必ず伴うものだからです。

 直近でも、大手出版社から「児童文学作品」への意欲的な試みが発表されました。出版不況といわれていようと、例えば学校読書などで児童(小中高校生)向けの作品は需要が絶えることはありません。応えてくださる作品が増えることを、またこの企画が書き手の刺激になることを願ってやみません。

 次の企画に向けて、あなたも児童作品を考えてみませんか?

藤紫担当
藤紫担当

【ひと言】

 作品の対象年齢に応じた漢字を使いましょう!

読了後の感想

ご応募いただいた作品の内、条件に合致する小説を読ませていただきました。
下記にメンバーの感想を記載いたします。
尚、紹介の順番は作品タイトルの五十音順となっております。
敬称略とさせていただきます。

『裏路地の道』|森羅秋

檸檬担当
檸檬担当

 8歳の男の子が初めてのお使いにでかけた帰り道。ちょっと近道をしようと狭い路地に踏み入ったら……。ちょっと生意気なひよこをお供に迷い道が意外な結末へと読者を導く短編作品。男の子の描写がとても自然で、するりとトワイライトの作品世界に浸ることができた。街中から移ろう景色もビジュアルの立ち上がりがとてもスムーズだ。描写にも言葉選びにもストレスを感じない安定感に、書き手の懐の深さを思った。

檸檬担当
檸檬担当

 意外な結末をここで明かすわけにもいかないので、最後にひと言。

 合掌。確かに重みを受け取りました。

※常用外の漢字用語を使ってある箇所、確認の上で平仮名に換えられないか、ルビをつけてはどうかなど、ぜひご検討ください。

天宮さくら
天宮さくら

 買い物の帰り道、裏路地を歩いていた少年の肩に一匹の黄色いヒヨコが乗り、気がつくと不思議な世界に迷い込んでしまった物語。主人公の少年くらいの年齢層を想定読者とするなら、文章が難しく、少々残酷な表現が使われていると感じました。調整されたら児童文学に該当する、かもしれません。

『親ガチャ~地獄の沙汰も運次第①~(寅也の物語)【挿絵有り】』|星乃史歩

檸檬担当
檸檬担当

 ある日、管理すべき死者に「親ガチャ」を体験させることを思いついた冥府の王。その思惑により転生を経験する中学生の顛末が描かれている。良くも悪くも世間に流布したキーワードを活かした作品だ。刺激的なタイトルは、こどもたちの目をひくかもしれない。

檸檬担当
檸檬担当

 だが作者は、この話を通じて何を伝えたかったのだろう。

『強く生きろ?』『足ることを知れ?』『強欲は罪である?』『思い通りにいかないのが人生?』

 ……実のところ、寅也が文字通り死ぬほど厭った「親ガチャに外れた」現世。作中では、勤勉な両親が貧しい中で賢明に子を育てている。母親に至っては当の寅也よりも割を食った生活をする中、腐らず創意工夫をこらしていることが垣間見えた。これに気付けということか? だが、ローティーンが読み取ることは、おそらく難しい。

 作者が伝えたいこと、若い読者に残したいメッセージはなんなのだろうと考えている。

天宮さくら
天宮さくら

 読ませていただきました。今回の応募趣旨である児童文学作品に該当しないため、感想は省略させていただきます。

『カラフル』|植田伊織

檸檬担当
檸檬担当

 クラスの真ん中で華やかに笑う愛莉に憧れる京子は、ある日、思いきっていつもと違う行動に出る。そのことをきっかけに思いがけず交流が生まれ、ひとには多面性があることに気付かされていく。高校生の心の一コマを描いた青春小説だ。いまでは遠い学生時代を懐かしく思う。それは、主人公の心の揺れにリアルが宿っているからだ。読んでいて気恥ずかしいほどにありありと思い出した。

檸檬担当
檸檬担当

 だから、というわけでもないが、作家さんは若手ではないだろうか? 視点が登場人物にかなり近いと思われる。例えば、後半のクライマックスにあたる京子の台詞がある。憧れの愛莉の家族になにかしら事情があるからといって、ひいたりなんかしない、と熱く述べるシーン。ここは、実はとてもデリケートな話題である。『愛莉の妹の立場』へのケアを、多くのおとなは姉とその友人に考えてほしいと願い、作品要素に加えることだろう。

 しかし同世代であれば中々思考が及ばないことも理解できる。そこが、若い書き手の盲点になれば、逆に強みにもなるだろう。つまりキャラクターや読者とフラットな立場にいることで醸し出すリアリティは、先に書いたように、強い共感を生んで読者にインパクトを与えることも可能なのだ。そうして伝えたいことをストーリーに託すことが容易になる。ただし、作中で主人公が語る価値判断を作品の結論にしないことが肝要だ。──なぜかといって、ものすごく説教くさくなるからである。瑞々しい臨場感のある一人称の作風と「こうあれかし」は、少々相性が悪い。主人公が他者に思いを語る場合をファイナルアンサーとせず、エピソードで表現し、読者に共感させていく工夫をお勧めしたい。

『未知の自分を探して冒険しよう』。素敵なメッセージを受け取った作品だ。書き手の「冒険」に期待申しあげる。

天宮さくら
天宮さくら

 いつもとは違う自分になるきっかけをネイルに託す主人公・京子の物語。扱っている題材は女子生徒の友情物語です。ただ、児童文学にカテゴライズしても良いかと問われれば、少々微妙だな、というのが私の率直な意見です。むしろライトノベルや純文学に近い気がしました。

『しおり』|天野つばめ

檸檬担当
檸檬担当

 書店を父から受け継いだ男性が、常連客の小学生とのアクシデントをきっかけに、仕事や社会との向き合う姿勢が変わっていくという筋立て。それぞれのエピソードに必然性があり、リアリティあふれる臨場感に、一読者として年齢性別も遠い主人公に共感して読んだ。登場人物の個性やバックグラウンドも適度に書き込まれて心地よい。世の中にはこうしたことに困っているひとが少なからずいるのだという学びがあり、読後もさわやかながら考えさせられる。作者のしっかりとした力量を感じた。

檸檬担当
檸檬担当

 さて、ここでひとつ指摘をさせて欲しい。この作品は社会に出ていないこども、特に小中学生には、主人公の店主に共感することがむずかしいということだ。一方の主要人物が小学生であり、彼女同様、学校で困っている子らには役に立つ情報が詰まっているだけに、もったいない。おとなの主人公の一人称につき、彼が読み取らない少女が本を選ぶときの顔つき、なじられた恐怖や忸怩たる想い、後に主人公から受ける気遣いへの驚きや喜び。それらは若い読者が共感する鍵となるが、いかに作中に織り込んでいけるのか、作者の出す答えに興味がある。そもそもこの作品、児童書側での需要の余地が大きくあると、檸檬担当として思うのだ。

天宮さくら
天宮さくら

 本屋の店主である主人公が、不可解な行動を取り続ける少女と仲良くなる物語。本作が、今回企画趣旨である「ローティーンの読者に伝わる物語」かと問われれば、少し文体が硬すぎる気がします。ですが、少女の抱える悩みや、それをサポートする手段などは、是非子供たちにも知っておいてほしいと思いました。

『【童話】ロング,ロングロングサマーナイト,グッデイ』|津多 時ロウ

檸檬担当
檸檬担当

 作者が言及するとおり、宮沢賢治作品へのオマージュとなる児童向け作品。「銀河鉄道の夜」さながらの構成で、筋立てはこうだ。『悩みを抱えた少年が、一夜、不思議な小熊バスの乗客になる。旅を通して心の内が昇華され、やがて出発点に回帰し──。』

檸檬担当
檸檬担当

 収めるべきに収まった構成にとどまらず、その文体、リズムにモチーフも、宮沢作品のクラシカルで温かみがありユーモラスな書き味に寄せてある。温故知新を地でいく作品と言えるだろう。では、肝心の「新」。本作のオリジナリティはどこにあるかと言えば、それは解決の鍵として、ダイバーシティ「多様性の共生」を持ってきたことにあるだろう。

 現代は過渡期であり、かつ非常にデリケートな時代だ。他者に傷つけられることを恐れ、また傷つけてもいけないとされるが、時代のオーダーは多岐にわたっている。何を笑い飛ばし、何を慮るべきか(笑い飛ばすべき不条理も当然ある)。被害者は一転、加害者にもなる難しい時代。自らの有り様を貶められ、深い憤りを抱える少年が幻想の旅路で出会うのは、悩み多き現代社会が内包する混迷そのものだ。

 作者が紡ぐ、やさしいこども向け童話は、実は大いなる問いかけを私たちおとなに突きつけるものでもあった。この深みがよい。次はぜひ、オマージュではないオール作者オリジナルを読んでみたい。

天宮さくら
天宮さくら

 主人公は母親に言ってしまった暴言を後悔しつつ夜の公園へ行き、小熊が扮するバスに乗って夜の旅を満喫する物語。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をリスペクトした作品。アドバイスをしていく乗客たちの言葉が、同じ悩みを抱えた子供の心に響くしれせん

『猫が私に』|みちづきシモン

檸檬担当
檸檬担当

 気まぐれに、猫と会話ができる主人公の猫たちの、心温まる物語。

 主人公の家では数匹の保護猫たちと暮らしている。そんな出だしで、主人公の語りで日々の交流がつづられる。といっても、単なる猫愛では終わらない。ある日の火事場での手に汗握る出来事。間一髪、主人公の母親の病気を猫に告げられ奮闘した幼い日。成長する主人公が迎えた別れの日……作者曰く、初投稿作品とか。それでありながら読者を泣かせるとは!(泣きました)

檸檬担当
檸檬担当

 ドキドキもハラハラも切なさも。温かく愛しい猫たちとの家族愛も。情感たっぷりに語られていき、すっかりと猫派になって追体験できるこの作品を、多感なこどもたちにぜひ手に取ってもらいたい。もちろん、小動物がお好きなおとなにだって、暖かい陽だまりに包まれたい日にお勧めだ。

 愛を感じる素敵な作品に出会えた(にゃあ)。

天宮さくら
天宮さくら

 猫の言葉がわかる少女・鮎香の、猫たちと過ごした日々の物語。猫と触れ合い成長する鮎香の姿と、物語全体を優しく包むような文体に、ほっこりと優しい気持ちになりました。動物への愛情をはぐくめる作品だと思います。途中、実家で猫を飼っていた経験があるので、思わず泣きそうになっちゃいました。

今後の予定

参加してくださった皆様、企画を応援してくださった皆様、ありがとうございました。
今回、参加が間に合わなかった方は、またの機会をお待ちいただければ幸いです。

今後ともよろしくお願い致します。

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